Track#8 Sunday morning / Maroon5



日曜の朝、冷たい雨の音をかすかに聞きながら目を覚ました。
薄い灰色のモノクロームの部屋の中で、僕と彼女は一緒に毛布にくるまっている。
窓の外をぼんやり見ると、ガラス球のような雨の雫が街路樹の枝を飾っている。

僕の気配に気づいて、けだるく彼女が薄目を開く。
目が合うと、一緒に朝を迎える少しばかりの気恥ずかしさ、共犯者のような思い、
そして、二人だけで抱えるたまらない寂しさがこみあげてきて、そっと僕達は唇を重ねた。

みんなを夢中にさせる歌を伝えていこうと、二人で田舎を飛び出してこの街で暮らし始めた。
アルバイトをしながら曲を書き、演奏させてもらえる店ならどこでも弾いてきた。

大騒ぎする酔っ払い客の前で、苦しそうな顔で歌う彼女。
そして、自分の音もよく聴こえないようなステージで力をふりしぼってギターを弾く僕。
いつかは上のステージに行くんだと、ずっとこんな演奏を芽が出ないまま続ける二人。
でも、変わらない夜を重ね、不安は重なるばかり。

押しつぶされそうな気持ちを忘れたくて、演奏させてもらえる店を二人は必死に探し、そのたび挫折し、
夜はすがるようにお互いを求めた。
そして、今朝のような目覚めがまた巻き戻しのように訪れる。

「おはよう、、コーヒー入れるね」 
「うん、、ねぇ、昨日の店、もう演奏やめない?あそこで歌っていてもちゃんと聴いてもらえないし、、」
「そうだね、、また新しいお店探せばいいよね」 でも、演奏できるあてなんてまったくない。。

そんなとき、僕の携帯が鳴った。
「えぇ、はい、そうです。はい、、えっ?本当ですか?わかりました。今夜8時に行きます。ありがとうございます。」
「誰から?どうしたの?」

僕は興奮して話しかける。
「あの老舗のライブハウスから。昨日の店で聴いてくれたお客さんが、僕らのことを気に入って紹介してくれたみたいなんだ。
すごいよ。こんなことってあるんだね。」

「ほんと?すごい。。でも、あそこのライブハウス、お客さん厳しいみたいだけど、大丈夫かな?」彼女も笑顔が戻ってきた。
「うん、やるしかないよ。今夜、思い切りぶつかってみようよ。」 雨のように降ってきた思わぬチャンス。救われた気がした。

「でも、、その前に、、」
急にモノクロームからフルカラーに染まった部屋のテーブルにコーヒーを置いて、僕は彼女の身体を包む毛布を剥ぎ取り、
シーツの波に溺れていった。
「大丈夫、、、今度こそきっと、、」と、まるで空をつかむような気持ちで囁きながら。。。


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